東京地方裁判所 昭和59年(ワ)11792号 判決 1986年7月10日
原告
寺塚原三重
被告
柏自動車株式会社
主文
一 被告は、原告に対し一五八万九六七二円及びこれに対する昭和五五年一二月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告その余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、原告に対し三三一万五八一六円及びこれに対する昭和五五年一二月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、昭和五五年一二月二四日午前七時八分ころ、東京都文京区西片一丁目一五番七号先の交通整理の行われている十字路交差点の横断歩道において、通称白山道路を横断中、被告柏自動車株式会社(以下「被告会社」という。)に自動車運転手として雇用されていた訴外大内孝喜の運転する被告会社所有の普通乗用自動車(以下「加害車」という。)に衝突され、坐骨及び恥骨々折の傷害を受けた。
2 そして、原告は、右傷害治療のため、日本医科大学附属病院に昭和五五年一二月二四日から昭和五六年二月一二日まで入院し、昭和五六年二月二五日から昭和五九年一〇月一三日まで通院していたが、昭和六〇年三月八日後遺障害等級一四級一〇号に該当する後遺症を残して症状が固定した。
3 被告会社は、本件加害車を保有し、これを自己のために運行の用に供するものであるから、自賠法三条により、原告が本件事故により被つた損害を賠償する責任があるというべきである。
4 原告は、本件事故により、次のような損害を被つた。
(一) 治療費 二四万四六二〇円
原告は、本件事故による負傷の治療のため二四万四六二〇円を支出した。
(二) 入院雑費 五万一〇〇〇円
原告は、前記のとおり日本医科大学附属病院に五一日間入院したため、その間五万一〇〇〇円の雑費を支出した。
(三) コルセツト代金 一万四七〇〇円
原告は、治療器具としてコルセツトを購入装着したため、一万四七〇〇円を支出した。
(四) 通院費 一〇万二三四〇円
原告は、前記のとおり日本医科大学附属病院に通院したが、股関節痛、左下股痛により歩行困難であつたため、タクシーを利用し、その費用として一〇万二三四〇円を支出した。
(五) 逸失利益 六五万一七七七円
原告は、本件事故当時文京区立根津小学校教諭であつたが、本件事故のため昭和五五年一二月二四日から昭和五六年三月三一日までの九八日間欠勤のやむなきに至り、そのため原告の昭和五六年六月に支給されるべき賞与を一九万五三九六円減額され、右と同額の損害を被つた。
また、原告は、前記後遺症により労働能力を喪失したことになるが、その労働能力喪失率を五パーセント、その期間を三年とし、昭和五八年賃金センサス短大卒女子平均賃金三三五万一八〇〇円を基礎としてライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除してその逸失利益を算定すると、次のとおり合計四五万六三八一円となる。
335万1800円×0.05×2.7232=45万6381円
(六) 慰藉料 二四八万五九九九円
原告の前記傷害及び後遺症により被つた精神的損害に対する慰藉料としては二四八万五九九九円が相当である。
(七) 弁護士費用 四九万円
原告は、原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その着手金及び報酬として合計四九万円を支払う旨約した。
(八) 損害のてん補 七二万四六二〇円
原告は、被告から本訴請求に係る損害のてん補として合計七二万四六二〇円の支払を受けた。
5 よつて、原告は、被告に対し前記4の(一)ないし(七)の合計四〇四万〇四三六円から(八)の七二万四六二〇円を控除した残損害三三一万五八一六円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五五年一二月二五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の答弁
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実のうち、原告は、昭和六〇年三月八日一四級一〇号に該当する後遺症を残して症状固定となつたことは認めるが、その余の事実は不知。
3 同3の事実及び被告が本件事故について損害賠償責任があることは認める。
4 同4の事実のうち(一)ないし(七)は不知、(八)のてん補は争う。
5 同5の主張は争う。
三 被告の抗弁
1 過失相殺
本件事故は、原告が対面する歩行者信号の赤色表示を無視して本件交差点を横断しようとしたことに起因しており、原告が信号機の表示を遵守していれば発生しなかつたものであることは明白であつて、本件事故の責任の大半は原告にあるといわざるをえないから、被告に対する損害賠償の算定にあたつては、原告の右過失を十分斟酌し、損害賠償額を大幅に減額すべきである。
2 損害のてん補 一一九万五八二六円
被告は、原告の本訴請求に係る損害のてん補として合計一一九万五八二六円の支払をしている。
四 被告の抗弁に対する答弁
1 抗弁1の事実は否認する。
2 同2の事実は認める。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 原告主張の請求原因1、3の事実及び被告が自賠法三条に基づき原告が本件事故によつて被つた損害を賠償すべき責任を負うことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の被つた損害について判断する。
1 治療費 二一万九九〇六円
成立に争いない甲第一号証、同第三号証の一ないし四の各記載と原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により骨盤骨折の傷害を負い、その治療のため、日本医科大学附属病院に昭和五五年一二月二四日から昭和五六年二月一二日まで五一日間入院し、昭和五六年二月二五日から昭和五九年一〇月一三日までの間に一一九日間通院したこと、原告は、同病院に対し右期間の治療費として四回にわたり合計二一万九九〇六円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 入院雑費 三万〇六〇〇円
原告は、前記のとおり日本医科大学附属病院に五一日間入院したが、弁論の全趣旨によれば、原告は、その間一日あたり六〇〇円程度の雑費を支出したものと推認されるので、五一日分として三万〇六〇〇円の限度で認容する。
3 コルセツト代金 一万四七〇〇円
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証の記載によれば、原告は、腰椎の治療用として腰椎甲軟性装具を購入し、一万四七〇〇円を支出したことが認められる
4 通院費 二万二四六〇円
原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の記載によれば、原告は、日本医科大学附属病院に通院する費用として二万二四六〇円を支出したものと認められ、これを超える費用を支出したものと認めるに足りる確たる証拠はない。
5 逸失利益 六五万一七七七円
成立に争いない甲第二号証の記載と原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時文京区立根津小学校教諭として勤務していたが、本件事故により昭和五五年一二月二四日から昭和五六年三月三一日まで欠勤したため、昭和五六年六月に支給されるべき賞与を一九万五三九六円減額され、右と同額の損害を被つたことが認められる。
また、原告は、昭和六〇年三月八日一四級一〇号に該当する後遺症が症状固定となつたことは当事者間に争いがないところ、原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、右症状固定当時満七三歳であるが、極めて健康であるから更に三年程度は稼働可能であつてその間原告主張の年間三三五万一八〇〇円程度の収入を得ることができたものと推認されるが、前記後遺症によりその稼働可能力の五パーセント程度を喪失したものと推認することができるから、右の収入と稼働能力喪失割合を基礎として、ライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して三年間の逸失利益を求めると、その金額は次のとおり四五万六三八一円(一円未満切捨)となる。
335万1800円×0.05×2.7232=45万6381円
6 慰藉料 二〇〇万円
前記認定の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺症の程度その他諸般の事情を勘案すれば、原告が受けた精神的損害に対する慰藉料としては二〇〇万円をもつて相当と認める。
7 過失相殺
成立に争いない甲第六号証の記載に原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができ、右認定に反する甲第六号証の記載部分は採用することができない。
(一) 本件事故現場は、東京都文京区内の白山方面から水道橋方面に向う幅員約二八・六メートルのアスフアルト舗装の平坦な道路と、小石川方面から弥生町方面に向う幅員約一〇・八~一三メートルのアスフアルト舗装の平坦な道路が交差する交差点付近であつて、右交差点は信号機により交通整理が行なわれていた。
(二) 大内孝喜は、加害車を運転し、白山方面から水道橋方面に向け時速約四五キロメートルで進行中、右交差点にさしかかつたところ、右交差点の対面信号が青信号を表示していたので、そのまま直進しようとしたが、右交差点手前約三〇メートルで、右交差点北側出入口の横断歩道上を小石川方面から弥生町方面に向けて横断中の原告を認めたものの、原告が停止してくれるものと軽信し少しスピードを落としたまま漫然と運転を継続したところ、約一四メートルに接近してはじめて衝突の危険を感じて急ブレーキをかけたが間にあわず自車の右前フエンダー部分を原告に衝突させ、原告を路上に転倒させた。
(三) 他方、原告は、根津小学校へ出勤するため自宅を出発し、千川通りを横断して右交差点にさしかかつたのであるが、横断歩行者用の信号が青を表示していたため、右交差点を小石川方面から弥生町方面に向つて横断を開始したが、横断中の道路の幅員が約二八・六メートルもあつて途中で信号が変ることもありうるにもかかわらず、途中で信号を確認したり交差点に進入してくる車両の有無を確認せず下を向いたまま横断を継続し、ほぼ横断を終えようとするところまで進んだ際、左側から右交差点に進入してきた加害車と衝突した。
右認定の事実によると、原告には右交差点の横断を開始したのち歩行者信号や交差点に進入しくる車両の有無を確認することなく、漫然と下を向いたまま幅員約二八・六メートルもある道路の横断を継続した過失があるというべきであるから、被告の損害賠償額を定めるについて一〇パーセントの過失相殺をするのが相当であるところ、前記1ないし6の損害は合計二九三万九四四三円であるからこれから一割を控除すると、過失相殺後の損害は合計二六四万五四九八円(一円未満切捨)となる。
8 弁護士費用 一四万円
本件事案の内容、審理の経過、認容額その他の諸事情に照らすと、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として被告に請求しうる弁護士費用は一四万円をもつて相当と認める。
9 損害のてん補 一一九万五八二六円
被告が原告の本訴請求に係る損害のてん補として合計一一九万五八二六円を支払つたことは当事者間に争いがない。
三 以上のとおりであるから、原告の被告に対する本訴請求は、被告に対し損害合計二七八万五四九八円からてん補額一一九万五八二六円を控除した残損害一五八万九六七二円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五五年一二月二五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから正当としてこれを認容するが、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 塩崎勤)